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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1018号 判決

理由

本件家屋について浦和地方法務局本庄出張所昭和三七年第四三四七号をもつて、控訴人主張の根抵当権移転登記がされていること、被控訴人が右根抵当権実行のため浦和地方裁判所熊谷支部昭和三六年(ケ)第一六号不動産競売事件の競売手続を進めていることは、ともに当事者間に争がない。しかも右根抵当権およびその被担保債権である本件債権が控訴人主張の弁済供託によつて消滅したことは、被控訴人が認めるところである。したがつて、本件債権の存在しないことの確認を求める控訴人の本訴請求は、その余の争点について判断するまでもなく正当といわなければならない。また、前記競売事件の手続は、債権が消滅した以上その続行を許すべきでないので、その不許の宣言を求める控訴人の本訴請求も正当であることは明らかである。

控訴人は右根抵当権移転登記の抹消登記手続を請求するのであるが、控訴人は現に本件家屋の登記簿上の所有名義人ではない。しかし控訴人が現在の所有名義人清水光夫に対して登記名義の回復請求訴訟中であることは、口頭弁論の全趣旨から認められるところであつて、控訴人が右訴訟に勝訴し、清水から登記名義の回復を得たときには、被控訴人の根抵当権がすでに消滅している以上、控訴人は被控訴人を登記義務者として根抵当権移転登記の抹消登記申請をし得る道理である。そうして、《証拠》によれば、本件家屋については訴外協会の競売申立(前出競売事件、昭和三六年三月八日登記)直後、競落を免れるための策として控訴人と清水光夫が通謀の上、清水名義に所有権移転登記(同年五月二日登記)をしたことを認めることができ、しかも右協会の申立債権がその後被控訴人に移転したという理由で被控訴人が競売手続を進めていたところ、弁済により債権が消滅したことは前記認定の如くであるから、本件家屋の所有権は控訴人にあり、清水は控訴人に登記名義を回復する義務があるものと認められる。原審、当審の証人清水光夫の証言中以上の認定に抵触する部分は措信せず、乙一六ないし一八号証も右認定を左右しない。したがつて控訴人は被控訴人に対し、現段階で登記抹消請求をすることが許されると解すべきであるから、控訴人のこの請求もまた、正当といわなければならない。

次に本件家屋について浦和地方法務局本庄出張所昭和三七年第三六六号をもつて、控訴人主張の抵当権移転登記がされていることは、当事者間に争がない。右登記の目的となつている抵当権は、《証拠》によると、昭和三四年一〇月一二日清水光夫が控訴人に対して有していた二〇万円の貸金債権ならびにその担保のために設定した抵当権が、昭和三六年一月一二日清水から大野静雄に移転し、昭和三七年一月二九日大野から被控訴人に移転したその抵当権であると認められる。しかし、大野から被控訴人への債権譲渡の通知書である乙一一号証は成立に争があり、《証拠》によれば、むしろ大野は昭和三四年一二月中控訴人に二〇万円を貸してその取立を清水に頼み、約半額の支払をうけたことはあるけれども、債権を被控訴人に譲渡したことも、抵当権を清水から譲りうけたこともなく、乙一一号証は清水が大野に無断で作成した文書であることを認めることができる。原審証人清水光夫の証言(第一回)中右認定に反する部分は信用できず、乙九号証、乙一〇号証の一ないし三も右認定を左右しない。そうすると被控訴人の右抵当権移転登記は権利移転の実体がないのに行なわれたものにほかならず、かつ右抵当権の被担保債権は被控訴人に属しないのであるから、右債権の不存在確認を求める控訴人の本訴請求は正当であり、また控訴人は現に本件家屋の所有名義人ではないけれども、前段詳記の理由と同一理由で被控訴人に右抵当権移転登記の抹消登記を請求し得ると解される。

以上の理由により、控訴人の請求を棄却した原判決を取消し、右請求ならびに当審で拡張された請求をすべて認容

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